第4話 「じっせんに向けて」






 ルフィー、ブール、結花の3人がクロードの元で弓矢を学び始めてから、今日でちょうど
五週間が経過した。ルフィーが冒険者学校に入学してからは七週間がたった事になる。基本
課程は残り三週間となり、知識学習、弓矢の練習とも中盤から後半の段階に入ってきた。

「皆さん、だいぶ上達してきましたね。昨日お伝えしておきました通り、今日は第1回目の
技能審査を行いたいと思います。」
「あ、はい。」 
「いよいよだな。」

−−−技能審査。これは、この町にある公認の学校では必ず行われており、その人がどの分
野で、どの程度のレベルを持っているのかを客観的に見ることによって、冒険者本人、依頼
者双方に色々な便宜を図っているものである。基礎過程の七週目と十週目、さらに実地研修
が終了した時に行われ、実地研修での成果とあわせて各分野のランク付けがなされている。
ランクは一番下が、ランク8で、ランク1までは数字が小さいほうが上である。各技能ごと
の採点はこの8段階で行われる。さらに、総合的に優れた冒険者の総合評価にはこの上のラ
ンク(最高はランクS1)があるが、ルフィー達にとってはこれはまだ無意味であろう。
ここで出た結果は、レムリア大陸の南部ではそれなりに意味を持っているようである。

「それでは、今日の課題を説明しましょう。的から20m、40m、80mの3つのポイン
トからそれぞれ的が静止状態で8射ずつ。そのあと実戦を想定した可動的射撃を行っていた
だきます。静止射撃が240点満点、可動射撃が160点満点の合計400点満点です。 
今回は初めてですので、160点のランク3を目指してください。」
「160点ですか・・・。それだと4割って事ですよね? そんなに難しいものなの?」
ルフィーがたずねた。
「あ、考えてみるとそうね。この3人の中だと私が一番下手だけど、40mからなら半分以
上は当てられているわけだから・・・・・。」
「4割なら楽勝だろ。」
「ふふふ、大体皆さんそうおっしゃいますね。でもですね、この第1回目の技能審査でのこ
の科目の平均点がどのくらいかご存知ですか?」
「いや、知らない。」
ブールが答えた。

「実は、77点しかないんです。つまりランク6ですね。なぜかというと、この審査で使う
的は・・・・いつもとは違ってこれなんですよ。」

そういうと、クロードは試験用の的を三人に見せた。それはいつも使っている直径75cm
の円形の的とは違い、ゴブリンや鳥、スライムなどのさまざまなモンスターを模した物であ
った。しかも、それぞれ高い点数の場所は異なっている。より実践的、つまり効率的に敵を
殺すかという点が重視されるのである。

「これを使うんですか? 難しそう・・・・。」
「ですよね、ルフィーさん。」
「まあ、がんばろうぜ。」
「そうです、がんばってください。じゃあ、準備しますね。」

 準備が終わり、まずは20mの位置から8射ずつを行う。抽選の結果、まずはブールが行
うことになった。ルフィーと結花は後ろのほうに腰掛けて見守ることにした。

「皆さん、言い忘れましたが、8射の制限時間は5分間です。1秒でもオーバーすると、残
りは全て0点となりますので、気をつけてくださいね。それでは、どうぞ。」

「あ、ルフィー、ルフィー。あの的ってすごい良く出来てると思わない?」
「私もそう思います。特にあのスライムなんか、遠目に見たら絶対わかりませんよね。いっ
たい何で出来ているんでしょうか?。」

ルフィーと結花が感心するのも当然のことで、この試験に使われる的は非常に小さなホログ
ラムの投影装置を使って、実物を再現しているのである。

 ブールの試験が始まった。ブールの的は蝙蝠のような小さな鳥の形をしている。二つの羽
の中心の部分や、目の部分、さらには羽の付け根を狙うとポイントが高くなっている。中心
=高得点の図式に割と近い的であるため比較的高得点を取りやすい的である。しかし・・・

「あーー。」

ブールが思わず声をあげる。当たったには当たったたが場所的には左側の羽の左下の部分。
これは、実戦ではたいしたダメージにはならないものであろう。この試験的に見ても得点は
2.2点と低い場所であった。

「敵を倒すにはどこを撃つべきなのか。これは良く考えればわかるはずです。そのためには
どこを狙えばより効率がいいのかを考えましょう。ただ、的に当たればよいという普段の練
習とは違いますよ。」

「はい。」

ブールはそう答えて、続けて撃ち始めた。しかし、頭でわかってもなかなかうまくいかない
のが、技術を要するものの常である。ブールの2射目からの結果もあまりよくなかった。

  1射目 2.2  2射目 3.5  3射目 8.0  4射目 5.2
  5射目 −1.0 6射目 −1.0 7射目 4.0  8射目 2.2
  合計 23.1

この結果には、さすがにブールもショックを受けていた。今までそれなりに自信を持って取
り組んでいた彼であったが、このような形で結果を突きつけられるとやはり落ち込むようである。
 これに続いて、ルフィーと結花の試験も行われた。その結果は、ルフィーは31.4点と
3人の中では一番良かった。そして結花の得点は8.8点であった。8回中4回も的をはず
してしまった影響が大きかったようである(的はずしは−1.0点。0点ではない。)。

「それでは次。40m行きますよ。」

クロードが3人に声をかけた。

「はい。わかりました。」

そして、3人は淡々と試験をこなしていった。最初つまづいたブールであったが、やはり3
人の中では一番うまく、三種目合計で71.9点を獲得。ルフィーは80m射撃で大失敗し
66.8点。結花は結局最後まで調子が出ず30.2点しか獲得できなかった。

「あ、あ、ぜんぜんだめね。わたし。」
「まだ、次があるから、がんばろうよ。結花さん。」
「そうだ。あきらめたらだめだぞ。」
「さて、皆さんとりあえず前半が終わりましたね。黒崎さんはちょっと残念な結果になって
いますが、まだ後半がありますからがんばってください。ルフィーさんとブールさんは平均
よりはいい成績を収めているようですね。最初に私が言った160点までは少し厳しいかも
しれませんが、ぜひがんばってください。」
「はい。」
「さて、後半の可動的射撃ですが、これはここにはない特別な設備を使って行います。それ
は魔法学校のほうにある設備を使わせていただくことになっていますので、これから皆さん
で、魔法学校のほうに向かいましょう。」
「あ、わかりました。」

 クロードと三人は簡単に後片付けを済ませると、それぞれの弓と矢を持って魔法学校へと
向かった。その道すがら、ルフィーは向こうから知った顔が歩いてくるのに気が付いた。

「ルフィー! ルフィー! どうしたの。」
「シュリットさん、こんにちは。そちらこそどうしました。」
「私は、今日は早く魔法の授業が終わったので、ちょっと町を歩いているの。魔法使いの人
って結構年寄り多いじゃん! だからすぐ病気になるんじゃないの!」
「ははは、そうかもね。」
「で、ルフィーはどこにいくの?」 
「私はこれから魔法学校に行くのよ。弓矢の技能審査をやるから。」
「ルフィーのところはもうやってるんだ! うちはあさってやることになっているの。 
じゃあ、がんばってね!」
「うん、わかったよ。」

そういって、ルフィーとシュリットは別れた。すかさず、結花がたずねてくる。

「あ、あのひとは?」
「あの人は、魔法学校で知り合ったシュリットさん。確かエルフだったと思うわ。あの人は
純粋に魔法使いを目指してがんばっているみたいね。」
「あ、そうなんだ。」
「うん。もう着くね。じゃあ、もうひとがんばりしましょう。」








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