第二話:アクシス学園の怪

 アクシス学園――
 生徒の自主性を限りなく尊重しているこの学園では、授業以外のほとんどを生徒が管理している。
 そのため、他の学園より委員の数が多く、それらを統べる生徒会には、教師といえどもおいそれと文句は言えない。
 その長たる生徒会長となれば、学園の全てを手に入れたも同然である。求められている能力も半端ではない。
 そのうえ、仕事量も半端じゃなく多い。
 今日もまた、学園を良くしようと会議が行われている。
「さて、今日も会議を取り仕切らせていただきます。副会長のセピアです」
 赤髪、碧眼の少女が壇上で話し始める。
 毛先にレイヤーをいれ、全体的にシャギーで軽くした知的な美人だ。
 その美女の後ろには、対照的な美少女が立っている。
 淡い紫と海水緑の混じったボブカットの髪、少しのんびりした感じの表情、菫色と緑の混じった色の瞳からは、何を考えているのか読み取ることが出来ない。
「では、シリン生徒会長、一言お願いします」
 セピアが、シリンと呼ばれたのんびりした感じの女性に場所を譲り、一歩下がる。
シリンがゆっくりと前へ進む。
 20人ほどいる、生徒会役員の表情が一瞬こわばる。
 役員全員を見回し、シリンは口を開いた。
「えっと、みなさんがんばってくださぁい」
 もう一度言っておくが、生徒会長とは、学園全てを統べる存在である――たぶん。

「さて、次の議題です」
 会議が開かれてから1時間程、次々と議題が上がっては処理されていく。
 その間、シリンは壇の横の椅子に腰掛け、一言も口を開かない。
 窓の外をぼーっと眺めているが、誰も文句を言わない。
 それだけセピアが優れていたと言っても過言ではないが。
「最近、学園から物が紛失するといった事件が風紀委員から上がっています」
 風紀担当の役員が、状況を説明する。
「最初は、お菓子類が無くなっていると言う噂が立っていました。
 噂というのは、本来お菓子類の持込が禁止されているため、表立って苦情が出てこなかったためです」
 手にしたメモを朗々と読み上げる。
「しかし、最近貴金属、財布などの貴重品が盗まれているそうです」
 セピアの表情が一瞬苦くなる。
「許せませんね、そういった悪事は!」
 机を強く叩く。
「全風紀委員を総動員して、問題を解決しましょう!」
 セピアが鼓舞する。それに応じて全員の士気が上がる。
「えー、だめですよぅ……」
 シリンが本日最初のこの一言を発するまでの間だが。
「そんなに大きくしたら、大騒ぎになりますよぅ」
「会長!」
 セピアがシリンを睨む。
「そんな悠長なことを言っている場合ですか!犯罪ですよ、はんざ……」

 がたん!

 セピアの声は、ドアが開く音に消される。
 ドアの前には銀色の髪をした少年が立っている。
 黒い瞳には、怒りの色が色濃く出ている。
「おい!いったいどう言うことや!」
 銀髪の少年が叫ぶ。
「それはこちらの台詞です!」
 セピアもそれに負けじと大声で言い返す。
「今は大事な会議中です、時と場合を考えなさい!」
「わいにとっては一分一秒を争う一大事なんや!」
 二人とも、今にも殴りかからんばかりに睨みあう。
 役員達も、様子を伺っている。シリンにいたってはぼーっと眺めているだけだが。
「いいでしょう、では早く用件を言ってください」
 セピアが大きく溜息をつき、落ち着いた声で促す。
「言われんでもいったるわい!なんでわいらの部が廃部なんや!」
「ああ、あなたが探偵倶楽部の部長、ガルドュンさんですか」
 全てを納得できたようで、手持ちの資料を見る。
「活動報告、ナシ。申請部費、トップ10。これだけでも十分に廃部の理由になりませんか?」
「そ……それはやな、この部は金がかかるんや!」
「そこは100歩引いて認めましょう。では、活動報告が無いのは?」
 資料ファイルを閉じ、ガルドュンを見つめる。
「依頼が無いのに、どうやって報告せいっちゅうねん!」
「そうですよねぇ!」
 突然、シリンが大声を出す。
 セピアが、ガルドュンが、全員がシリンを見る。
「さっきの問題、ガルさんに解決してもらえばいいじゃないですかぁ」
 シリンの言葉に、セピア他全ての役員が冷や水をかけられた表情になる。
「な……なんや?」
 ただ一人、先ほどのやり取りを聞いていなかったガルドュンだけが話しについていけず、きょろきょろしている。
「そうですね……さすがは会長です。御見逸れしました。さて、ガルドュンさん……」
 セピアはガルドュンを見て、にっこりと微笑んだ。
 もう一度、くどいようにだが言っておく。
 生徒会長とは、学園を統べる存在である。

「ったく……どないせいっちゅうねん……犯人をわいらで捕まえろっちゅうたかて……」
 本館と別館をつなぐ渡り廊下を、腕組みしながらぶつぶつ呟いて歩いているガルドュン。
 世界最大の規模を誇るこの学園では、別館の数が9つもある。
 その一つ、高等部2年生と、数十の部室をあつめた校舎、『ステイショナリ―』に向かっている。
 この校舎だけでも、千を超える生徒がいるという。

「ただぃまー」
 部室のドアを力なく開けて中にはいる。
「あ、おかえりなさい」
 セーラー服に身を包んだ、薄緑の瞳が印象的な生徒が明るく迎える。
 緑の髪に、金色のメッシュの入った長い髪が風を受け、舞っている姿は幻想的とも言えた。
「おう……クリス……って、また女装かい……」
 ガルデュンがさらに疲れたように呟く。
「ひどい!またって……いつもです!」
 何気にとんでもないことを言っているがとりあえず無視して、緑茶を啜っている女生徒の方に向かう。
「おう、かえってきたのか?」
 羊羹を一つ口に入れ、緑茶で流し込んでからその女生徒が口を開く。
 ガルデュンと同じ、銀色の髪を長く伸ばしている。
 その瞳も、髪の色と同じ銀色だ。
「ああ……」
「どうやら良くない結果をもってきたようだのう?」
 ガルデュンの態度を見て、全てを悟る。
「すまん……サナリ姉ちゃん……あぅ!」
 即座に湯のみが飛んできて、ガルデュンの頭に直撃する。
「誰がため口を聞いてよいと言うた?姉ちゃんじゃと?死にたいのか、おぬし?」
 無表情でガルデュンの胸倉を掴み、往復びんたをかます。
「あああ……ごめんなさい!サナリお姉様!」
「くっくっくっく!」
「五月蝿いよ、ヘル!」
 部屋の隅で怪しく笑っているヘルに怒鳴りつける。
 それでも表情が変化してないところに怖さを感じるが。
「ったく、おぬしは派手な外見をしていながら、どうしてそう陰気なのかのう?」
 紺色の髪に赤い瞳、体の所々にタトゥーシールを貼り付けている外見とは裏腹に、どこか暗い雰囲気を漂わせている。
「ほら、さっさと説明せんか」
 サナリがガルドュンに説明を促す。
「あ……ああ……」
「…………ああ?」
「は、はい!説明します!」
 直立不動の姿勢で、先ほどの生徒会とのやり取りを説明する。
「つまり、犯人を捕まえればいいってことよね?」
 クリスがちゃんと聞いていたのかどうか怪しいくらい簡単に言い放つ。
「お前なー……」
 がくっと肩を落とすガルドュン。
「そんなに簡単に捕まえれたら苦労しないやろ。わいら、4人しかいないんやで?」
「儂も動くのか?」
「……三人しかいないんだぞ?」
「くっくっくっく」
「むかつくからやめい!」
 サナリがその場にあったボールペンをヘルに投げる。
「くっくっく……あう!」
 格好をつけて、ボールペンを指で挟もうとし、失敗して直撃する。
「……まともなのは……いないんだぞ?」
「そうですねぇ……どうしましょう?」
 自分はまともだと思っているのか、本気で悩みだすクリス。
「心配いらん」
 言うなり、携帯電話を取り出しどこかに電話を始める。
「おお、儂じゃ。ちょっと頼みがあってな……そうそう……で、数人連れてきて欲しいんじゃ」
 数分後
「で、どうして俺がここにいるんだ?」
「そんなこというなよ、サナリのばっちゃんに呼ばれたんだからさ」
「そうそう。兄貴もそういつまでも拗ねないの」
 部室は先ほどより、3人増えていた。
「あの……こちらは?」
 ガルドュンが状況を理解しようとサナリに質問する。
「おお、こいつらはムサシとその仲間達のクトファーとステフじゃ」
「仲間じゃねえ!」
 クトファーの叫びをまったく無視して話を続ける。
「以前、ムサシが居合道部にちょくちょく顔を出しておってな、そのときに知りおうたのじゃ」
「だな、ばっちゃん」
「相変わらずじゃな、たまには居合道のほうにも顔をだせよ」
 サナリが楽しそうに目を細める。
「あの……部長……」
 クリスが小声でガルドュンに話し掛ける。
「なんや?」
「どうして、ムサシさんがあんなこと言っても平気なんですか?」
「知らん……わいもいまそう思っていたとこや……」
 ガルドュンがサナリをばっちゃん呼ばわりすれば、数秒で殺されることなど火を見るより明らかだ。
 二人が話している間に、サナリがあらかたの状況をムサシ達に伝える。
「つまり、犯人を捕まえればいいんだな?」
 ムサシが簡単に聞き返す。
「おお、そうじゃ。できるか?」
「いいよ」
「俺はやんねぇ」
 クトファーが即座に返答する。
「どうしてじゃ?」
「面倒、練習ができない、眠い」
 サナリの質問にも即答し、帰ろうとする。
「そんなこと言わないで、手伝ってやろうぜ」
 ステフがクトファーの腕を掴み引き止める。
 微妙にムサシの表情が変化するのをサナリは見逃さない。
「なんじゃ、おぬしまだ成功しておらんのか?」
「……ああ」
「くっくっくっく!!!」
『五月蝿い!』
 ムサシとサナリがダブルで突っ込む。
「……なんだか……」
「……言うな……俺もそう思ってたとこや」
 部室に人数が増えただけで、一向に話が進んでない状況を涙ながらに眺めているガルドュン。
 意味無く含み笑いを挙げているヘル、説得しているステフとクトファー、ヘルを無視して羊羹でお茶会を始めているムサシとサナリ。
 事態はむしろ、悪くなっているかもしれない。
 頑張れ、ガルドュン!

 誰もいなくなった生徒会室。
 正確には一人だけいる。
 その人物は生徒会長と書かれた場所に座り、机に置かれているベルを鳴らす。
「お呼びですか?」
 輝くばかりの金髪を胸の辺りまで伸ばした男がいつのまにか立っている。
 その顔には薄っぺらな笑みが浮かんでいる。
「ええ……なの、頼めるかしら?」
「わかりました」
 恭しくお辞儀をすると、いつのまにか姿が消えている。
「相変わらず……」
 何かを小声で呟くと、荷物をもって生徒会室から出て行く。
 誰もいなくなった部屋はどこかさびしげだった。

「さって……どうしたもんかなぁ?」
 ガルが問い掛ける。
 マンモス級に広い学園で、ランダムに起こっている盗難事件。
 はっきりいって、待ち伏せは不可能である。
「それを考えるのが部長たるお主の仕事じゃろう」
 ガルの姉、サナリが活を入れる。
「しっかし、しゃれじゃなく不可能に近いぜ?」
 クトファーもガルに同意する。
 全員、口にこそ出さないが同じような意見だ。
「心配には及びません!」
 突如、どこからとも無く声が響く。
「だ……だれだ?」
 ムサシがお決まりの返し文句を叫び、辺りを見回す。
「ここです!」
 がらっと、入り口のドアが開く。
「外で盗み聞きしておりましたので、大体の事情は飲み込めています、どうですか?
 私にもお手伝いさせて……と、どうしたのですか?」
 机に突っ伏している一同を見回す。
「ひ……ひねりもないことすなや……」
「ひねり?どういうことですか?」
「あのなぁ、ぎゃぐっちうのは、ひねりとおどろむぐう」
 ガルの講釈をステフがとめる。
「それより、誰?」
「これは申し遅れました」
 慇懃に礼をする。
「わたくし、生徒会執行部、特別部隊のリチャード=アールセキンと申します」
「特別部隊?」
 ムサシがおうむ返しに聞く。
「ええ、学園に蔓延る悪の巣を取り除き、平和を維持する部隊でございます」
「おお!]
 サナリの瞳がわずかに輝く。
「と言うことは、俺たちを手伝ってくれるということだな?」
「そうでございます!」
 クトファーに身を乗り出して答える。
「そこで、わたくしにワンダフルな提案がございます!」
 さらに身を乗り出す。
「な……なんだよ……」
思わず後ろにのけぞるクトファー。
「それは見てのお楽しみでございます」

「これが取って置きか?」
 クトファーが額に青筋を浮かべながら聞く。
「もちろんでございます。現在の科学の粋を集めて作った、犯人捕獲装置『鳥かご君』でございます」
 自信たっぷりに説明したそれは、普通の籠に棒を引っ掛け、紐を括っているという極めて原始的な物だった。
「どこが科学の粋だ!思いっきり原始的じゃねえか!」
「なにをおっしゃいます、犯人の性格等を考慮して、鳥のえさじゃなくお菓子を置いているのですよ、これが科学じゃなくてなんといえますか?」
「もおいい……」
 頭の後ろに重いものがのっかったような感覚に襲われ、思わず座り込む。

 がたん!

「ひっかかるんかい!」
 さらに激しい頭痛がクトファーを襲う。
 他のみんなにいたっては、呆然と成り行きを眺めるしか出来ない。
 がたがたいっている籠を、アールセキンは自信満々に押さえつけ――
「どうですか?」
 と、薄っぺらな笑いを浮かべている。
「ああ……思いっきり殺してぇ……」
「まぁ、とりあえず犯人の顔を拝ませてもらおうや、な?」
 ガルがたしなめながら、籠に近づく。
「じゃあ、開けますよ」
 アールセキンが勢い良く籠を開けると――子供がいた。
 見たところ、小学校低学年か、もしくは幼児と言っても差し支えないほど小さな子供だ。
「ふにぃ?」
 お菓子を口一杯に放り込んでいた子供は、自分に集まる視線に気付いてにっこりと微笑んだ。
「お……おお…………」
 アールセキンが拳を震わせてなにやら呟いている。
「ね、ねえ……子供相手に手を振るっちゃだめよ?」
 クリスがアールセキンを止める暇も有らばこそ。
「おおおおおお!」
 勢い良く走り出し、子供に向かっていく。
「おい!」
 誰かが叫ぶ。そのときには彼は少年の前に迫っていた。
 アールセキンは少年を抱き上げると、そのまま抱きしめる。
「おおおおおお!なんて愛しいのでしょう!」
「きゅう……」
 子供が目を回していてもお構いなしに抱きかかえ、あまつさえ回転などをはじめだす。
「お……おい!」
 慌ててガルが止めに入る。
「ふにぃ……」
 完全に目を回している子供をアールセキンから取り上げる。
「ったく、なにやってんねや」
「なにって、あまりにかわいらしいので求愛のダンスを踊っていたのですが?」
 まったく悪びれてなく、むしろ奪い取られたことに不満なのかすこしきつい口調になっている。
「きゅ……きゅうあいやて?あれがか?」
「ただまわっているだけに見えますか?そんな無意味なことするわけないじゃないですか」
 表情こそ薄っぺらな笑いを浮かべたままだが、その語彙には明らかな怒りが含まれている。
「あまりわたくしを馬鹿にすると、少々悲しいめにあっていただく羽目になりますよ」
「ほぉ、わいに喧嘩売るっちゅうねんな?」
 二人の視線が火花を散らす。
「うみゅう……」
 子供が、なんとか復活する。
「だいじょうぶ?」
 クリスがやさしく話し掛ける。
「みぅ……だいじょぶぅ♪」
 右手を挙げて、大きく返事する。
「ああ……なんて愛くるしいのでしょう……」
 恍惚とした表情で、子供を見つめているアールセキン。いまにも奪い去らん勢いだ。
「で、おちびちゃんはなんて名前だい?」
 クトファーがやさしく質問する。
「僕、マイナ!マイナーじゃないよぉ」
「そうか、じゃあマイナ。君に聞きたいことがあるんだが、いいかい?」
「あぅ?いいよぉ」
 にっこり微笑むマイナ。子供の笑顔は全ての物を凌駕する最高の武器だと言うのが納得できるほどの笑顔だ。
 クトファーもそれに一瞬たじろぐが、なんとか気を取り直して質問する。
「きらきら光るものをとったりしたことあるぐおぉ!」
 アールセキンの蹴りがクトファーの後頭部に直撃する。
 数メートル吹き飛び、そのまま壁に激突して意識を失う。
「こんなに可愛いマイナ様がそんなことするわけないじゃないですか!」
「てめぇ!兄貴になにしやがる!」
 ステフが激昂して、アールセキンに掴みかかる。
 しかし、それをひょいとかわして、マイナをやさしく抱き上げる。
「さあ、犯人達を探しにいきましょう!」
「っと、ちょっと待ってくれないか」
 今まで黙って――入れなかっただけだが――様子を見ていたムサシが呟く。
「なんでございましょうか?ムサシ様」
「一つ気になったんだが……どうして、達なんだ?」
 その、一言に全員の表情が引き締まる。
「どういうことでございますか?」
 相変わらず表情は変わらないが、その額に一筋の汗が浮かんでいるのをムサシは見逃さなかった。
「犯人の数、特長など一切わかってないはずだよな?」
「ああ、わいはきかされてへんで」
 ガルが続く。
「それを知ってるってことは、つまりはあんたが犯人か、それに近しい場所にいると言うことやな」
「まさか……そんなことあるわけ無いじゃないですか」
「いーや、よく考えたらお前が生徒会にいるなんて聞いたことあらへんで」
 一歩アールセキンとの距離を詰める。
「それに、まるでマイナの特徴を完全に掴んでいるかのような罠」
 もう一歩。
「よくも兄貴を……」
「ステフ、ずれてる」
 ムサシが冷静に突っ込みを入れる。
「くっくっくっく!」
「あんたは黙ってなさい!」
 意味無く笑いを漏らすヘルをたしなめるクリス。
「つ……つまりや、犯人はお前っちゅうこっちゃ!」
 某推理物の漫画のように、指をアールセキンに突きつける。
「ふ……」
 ゆっくりとマイナを降ろすと、もうダッシュで駆け出していく。
「あ、まて!」
 あわてて追いかけようとするが、あまりの速度についていけない。
「くそ……」
 ステフが残念そうにアールセキンが消えた先を睨んでいる。
 よほどクトファーを攻撃されたのが悔しかったのだろう。
「ま、まあ。これを生徒会に報告すれば終了やな!これで探偵部は安泰や!」
 とりあえず、クトファーは無視して――ステフ以外――喜ぶ一同。

「ってわけで、犯人はそいつにまちがいあらへん!」
 ガルが力説する。
「わかりました、ではその人物を検索してみます」
 セピアが部屋からでていく。
「どや、これで探偵部は問題ないやろ」
 胸を張りつつシリンに笑顔を向ける。
「すごいですねぇ」
「あったりまえや」
「でも……」
 シリンが、続ける。
「部活動規定って、部員が5人以上ですよぉ。ガルさんとぉ、サナリさん、ヘルさんとぉ、クリスさん。たりないですねぇ」
 みるみる青ざめていくガル。
「ってわけで、廃部ですぅ♪」
「なんでやねええええん」
 ガルの悲痛な叫びがこだまする。
「お待ちください」
 別室に行っていたセピアが戻ってくる。
「検索した結果、本校にアールセキンと言う人物は存在していませんでした。これは由々しき事態だと思います。ぜひとも彼らにもう一度調査を依頼したいのですが」
「そうなんですかぁ?でも、部員が足りないのはだめですよぉ」
「わかった、その辺はなんとかするから、勘弁してや!」
「そうですねぇ……いいですよぉ♪」
 こうして、なんとか探偵部は存続することができた。

「失敗したのですね……」
 彼女以外誰もいない生徒会室。
 虚空に向かって呟く彼女。
「もうしわけございません」
 どこからとも無く返事が返ってくる。
「はっきり言って、不愉快です。代々怪盗の家系に生まれた私にとって、これが初の敗北になるところでした」
 本棚を見つめながら彼女は話す。
 いつのまにかその後ろにアールセキンが立っている。
「は、言い訳の言葉もありません」
「今回はなんとか収めましたが、今後彼らに近づくときは注意してください」
「はい……あの、質問があるのですが」
アールセキンの口調は、まったく悪びれていない。
「なんですか?」
 それに慣れているのか、彼女も意に介していないようだ。
「どうして、探偵部を存続させたのですか?」
「簡単なことです。今回、一つ間違えていれば私まで追い込まれる事態に発展していました。このままでは私のプライドが許せないからです」
「なるほど」
「もう失敗は許しませんよ……完膚なきまでに彼らを叩きのめしなさい」
「仰せのままに……」
 仰々しく頭をさげたアールセキンの顔には、彼女を侮蔑しきった表情が浮かんでいた。
――彼女の下にいるのも飽きました……ここらが潮時でしょうね――
 学園にはびこる悪の芽は、確実に大きくなっていくのであった。

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