6.祭りの終わり

 2045時。
 クリーチャーの猛撃をかわし、ひたすら東へと車を進めた一行は、ついに目的の場所へとたどり着いていた。
 その役目を終えた装甲車が、巨大な銀色の柱の前に、静かに停車している。
 装甲のいたるところに、クリーチャーの体液や傷跡を残し、ゆっくりと排気しているその姿は、さながら役目を終えた老兵のようにたたずんでいる。
 激動の二時間。
 その後にようやく訪れた静寂を味わうように、クリス他4人はゆっくりと地上に降り立った。
 その目の前には、赤いマーカーで「EMERGENCY EXIT」と表示されたシンプルな扉が見える。
 しばらく周りを警戒しながら待つと、頭上の方から金属的な高音が響いてきた。
「・・・どうやらお迎えがきたみたいね」
 その音に耳を傾けながら、クリスが静かにつぶやく。
「・・・ようやく、だな」
 周りに鋭い視線を向けたまま、OZも呟いた。他の3人も、それぞれの表現で達成感と、安堵の表情を浮かべている。
・・・・堕洫檗AAAAE51次次次次・・・・
 爆発音が反響して伝わると、直後に緊急停止を顕す甲高い金属の悲鳴が聞こえた。
「さてと、ちょっと登らなくちゃね」
「やれやれ」
 うんざりしながらも、喜々として5人は扉をくぐ
どさっ
 突然なにか重たい音が背後から聞こえると、直後にこれまでの二時間をいやというほど聞いてきたクリーチャーの雄叫びが重なる。
 クリスは振り返ると同時に、MP5を乱射。扉の前から一同が散開する。
 なおも扉の前に残ったクリスの見たものは、血だまりの中に倒れ伏す、胴体の内死体と、その横でなにか丸い物にかじり付いているクリーチャーの姿だった。
 そいつの口の中から、長い髪が漏れ出ている。
「ローズ!」
「おおおおおおっ!」
 側面に周り終えたOZがクリーチャーに飛びかかり、側頭部に手刀を突き刺す。
「書庫解凍(エキスパンド)!・アンダープレッシャー!・実行(ラン)!」
 離れ際にOZから放たれた魔法は、クリーチャーの身体を押しつぶし、さらに地中へと1mほど埋める。
 ローズを殺したクリーチャーは、悲鳴一つあげずに、ゆっくりと地面の中に消えていった。
「クリス!さっさとポセイドンに行け!俺達は装甲車で脱出する!」
 新たに暗闇から浮かび上がった影を見て、OZが振り返りもせずに叫んだ。
「せんきゅー☆」
 クリスはあっさり頷くと、非常口の中に消えた。
「っておい!・・・かー、なんつー薄情なオカマだ!」
 思わず振り返ってから、地団駄を踏むと、OZは振り返って不敵に笑った。
「・・・これは死ぬ訳にはいかないな!」
「・・・オカマだったか・・・」
「エミも帰りたいー!」

 柱の内部に潜り込んだクリスは、吸着パッドを使って内壁をよじ登っていた。
 残してきた4人はどうやら派手にやっているようだ。
 時々爆音やらクリーチャーの叫び声やらがして、柱が細かく揺れている。
 クリスは黙ってエレベーターの上にたどり着くと、通気口から怪しげな薬をまき散らした。
 急いでガスマスクをつけて内部に侵入する。
 内部には3人の乗客が昏倒しており、クリスはデブでぶっさいくな男を見つけると、エレベーターの扉を開け、たたき落とした。
 今頃は天国か、接続ポッドの中で目を覚ましているに違いない。
 クリスは一人ほくそ笑むと、おもむろに素っ裸になって、懐から出したカードを右のピアスに吸い込ませた。
「書庫解凍・キャプチャーシェイプ・アピアランスピッグメール・ラン☆」
 クリスの姿が、デブな男に変わる。
 さすがに先ほどの男とは明らかに違うが、まぁ薄暗い中でならごまかせるだろう。それに乗客は当分起きない。
 クリスがガスマスクをはずした頃には、エレベーターは静かに降下を始めた。
 戦場の爆音は、静かに頭上に消えていった。

 ゲートをくぐり、駅員を適当に煙に巻くと、クリスは海底都市ポセイドンに降り立った。
 すぐさま雑踏の中に姿を消し、目に入った宿屋にチェックインすると、クリスは水晶玉を取り出した。
「えーと・・・フェイちゃんの場所はっと・・・ここかー」
 地図に表示された場所は、ポセイドンの中央近く、高級宿屋「オクトパス」だった。
「相変わらず、大胆なことしてるのねー」
 静かな室内で一人呟くと、残してきたOZやライン、エミの事を考えながら、静かに眠りに落ちた。

 次の日−
 朝早くから宿屋をチェックアウトすると、クリスはオクトパスに向かった。
 久しぶりに会ったフェイは、特に変わったところはなかった。
 彼はただこう言っただけだった。
「おや、クリスさん。おはようございます」
 クリスの長い戦いはこうして終わった。

かなり強引な終わらせ方(笑)ポセイドンに来てからのエピソードも色々考えていたのですが、めんどくさいのでカットしました。あしからず(^^;

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