1.クラリシアの遺品

 爽やかな午後の涼風を浴びながら、クリス・コファーは「優しい日差し亭」のサロンでくつろいでいた。
 手元のテーブルには、ルビーを溶かし込んだような透き通る紅茶が、香気に満ちた湯気を立てている。そして、その横にはクラリシアの遺したサークレットが、日差しを跳ね返して優しく輝いていた。
 クワトロアンカーに来てから、はや一週間。
 その間、アトランティスの混乱の中ではぐれてしまった飛走影を探すが、消息は杳として分からなかった。
 ため息を洩らすクリスを、優しく見守る一個のサークレット・・・・それは、クラリシアの存在を残す、たった一つの物。
 −また愛しい人を失ってしまうのか−クリスの脳裏にクラリシアの最後の笑顔が浮かぶ。
 紅茶の湯気を顔に当てながら、クリスはサークレットをじっと見つめていた。
 サークレットは全体が金で出来ている。額の部分には、直径4cmほどの紅玉が使われ、その脇にも小さな紅玉が4個ついている。サイドから伸びた金の蔓は、後ろへと頭を覆うように伸びていた。
 そういえば・・・・この中には、一体何が入っているのだろうか・・・・
 複合魔術師にして、凄腕のハッカーでもあったクラリシアである。
 その頭を最後まで飾っていたこのサークレットが、ただの防具であるはずがなかった。
 クリスは、半ば誘われるようにサークレットに手を伸ばすと、紅玉を『開いて』みた。
「・・・!」
 クリスの脳裏に、おなじみの『倉庫』が開き、中にはクラリシアの物と思しき、数々のアイテムがそろっていた。
 その小ささの割には、『倉庫』の容量はかなり大きなもので、魔法カードや、大小の武具防具を流し見していると、一つのアイテムがクリスの目に止まった。
 それは他の武具とは明らかに違う、『倉庫』の中でさえも透明な光を放っているかのように見える一個の水晶玉だった。
「なんだろ?これ?」
 『倉庫』から出して手に取ってみる。
 すると、クリスの視界が一瞬で切り替わり、コンピューターの画面のような映像に切り替わった。
【検索条件を入力してください】
「変なのー・・・まーいーや・・・えーと、『飛走影』っと」
 戯れに言葉を口に出すと、いきなりプログラムが走り出した。
「げっ!やっばー!なんかの攻撃アイテムだったらどーしよう!えーと・・・中止、中止っと・・・・」
ぴー
 クリスが迷ってる間に、プログラムは電気的な信号音を出すと、『完了』と画面に大きく表示した。
【検索結果の表示 YES or NO?】
「ほ?えーと・・・イ、エ、スっと」
 クリスが同意したとたんに、画面がものすごい勢いでスクロールしだした。
「え?え?」
 それは、サイアド内のキーワード『飛走影』で引っかかる物全てに対しての情報だった。

注)クラリシアのサークレット
 額の中央の、直径4cmの宝玉は、魔法解凍用で使用可能者は、クラリシア本人と、クリス(!)中央の宝玉の脇の4個は、倉庫用。クリスが『開いた』のは、脇の宝玉である。
 元からクリスにあげるためのものだったらしく、倉庫内部には取り扱い説明書が入っている(笑)

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