彼女はどきどきしながらさっき届いたばかりの段ボールを開けた。
 最上部に入っていたのは、機械的なデザインで「CYBERNETIC ADVENTURER」というロゴのプリントされたゲームパッケージ――現在、世界中で大流行している、バーチャルリアリティシステムを導入した初のネットRPGである。迷わずパッケージの封を切り、説明書を読みながらVRセットを組み立て、ケーブルや電話線を部屋のパソコンに接続する。サイ・アドはずいぶん前から欲しかった。多分今までで一番嬉しい誕生日プレゼントだろう。
 ハードのセッティングが終了すれば、今度はソフトのインストールだ。ハードディスクの容量をかなり食うが、そんな些細なことを気にしてなんかいられない。昨日まで熱中していたゲームを彼女はあっさりとアンインストールした。インストールの時間は思いの外長くて、思わず指で机を叩く。はやく、はやく、はやく――。そしてインストール進行状況が100%になり、やっと始められると思いきや、
『コンピュータを再起動しますか?』
 思わぬ落とし穴。いつものことなのに、今は相当ショックだ。
 そして漸く再起動も完了し、彼女はやっとソフトを起動させることができた。まずは自分の分身、いや依り代と言うべきか、そうなるキャラクター作り。どんなキャラクターにするかは既に考えてある。外見もモンタージュの要領で、自分の好みにある程度まで忠実に設定できるのは楽しかった。
 そして設定が終わるといよいよ夢にまで見たログインだ。ヘッドギアなど必要なものを全て装着し、作動させる。真っ暗だった視界が突然明るくなり、目の前で立体的な文字が踊った。
『CYBERNETIC ADVENTURERへようこそ』
 そして映画館の場内アナウンスのような声が聞こえてくる。
『初めてのプレイですね。あなたの冒険開始地点は、C-アクシス第二位の面積を持つ大陸・C-アトランティス613ブロックです。では、ごゆっくりとCYBERNETIC ADVENTURERの世界をお楽しみください』
「は、はいっ!!」
 彼女は思わず返事をしてしまったが、相手はプログラムが組み立てた音声である。言うだけ無駄だった。
 蒼一色の空間に、次第に地平線や木々の形状が形成される。そして彼女の身体も現れたようだ。
 淡い紫と海水緑の混じったような髪、通常の人間より長い耳。手には、頂上に透明な球形の宝石、いや魔法圧縮ファイル専用解凍ソフト1が取り付けられた杖(マジックワンド)。
 こうして、エルフの魔法使い「シリン=ダー」のプレイは始まったのである。

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